あなたがいてくれなきゃ 息もできないの


Jリーグディビジョン1/第33節。
東京地方は小春日和ともいえて、日差しはあたたかく、空は澄んだ青をしていました。
残り2試合。
相馬くんに残された試合は2つ。その事実は鉛のように重く、あたしのこころにのしかかってきます。これは夢でもなんでもなく事実であって、時間が止まればいいのにと願っても、それは無駄なことだということも知っています。
だからあたしは、その2試合を魂が削れてしまってもいいと思うほど大切にしていかなくてはならないと思いました。この目で、この身体で、相馬直樹という選手の終焉を見届けようと思いました。


13時過ぎに受信したスターティングメンバー。
そこには「MF/23 相馬直樹」の文字。泣くのはまだ早い、と思いながらも、涙は滲んできます。相馬くんがいなくてははじまらない、それがどんなかたちであろうとも、あたしの気持ちだけでは動かせないことがあります。その姿を全部記憶しておこうと思いました。
試合開始前、選手たちがピッチ上でウォーミングアップを始めます。
いつもなら「直樹はがに股だからすぐわかる」などと憎まれ口も叩くのですが、だんだんと無口になってしまう自分を感じます。だってこれが最後になってしまうかもしれない。そう思うと身体中の筋肉が緊張をして、その姿を凝視することしか出来なくなってしまうのです。
「自分にいまにないものをカウントすると、どんどん不安が募るだけだよ」
そう、失うものだけを考え続けることは拷問に等しい。


87分間、相馬くんだけを見てしまいました。
だから試合内容なんか覚えちゃいないんです。ただ右サイドのヒトがいつもと違うために、攻撃陣に若干の戸惑いは感じましたけどね。え? クロス上げてくれるの? とかバックパスじゃないのかよ? とかそんな程度ですけど。贔屓目に見て、相馬くんのポジショニングに関しては若い選手はどんどん見習うべきです。攻撃のパターンはその場にいる選手だけじゃなくて、それを受けるであろう選手までを考えて動かなくてはならないんです。パスカットや、球際の競り合いや、身体の入れ方ひとつを取っても相馬くんのレヴェルは高いと思いました。
経験は受け継がれていますか。それだけが心配なんです。


あなたが決めたことに後悔がないというのなら、
あたしだって後悔のない生き方をしたい。